認知症に関する健康講演会が開催されました。
11月30日市立コミュニティセンター大会議室で「認知症」に関する健康講演会が開催されました。今回は認知症について近畿大学医学部の先生方に「認知症とは」「認知症の画像診断」について幅広いお話をしていただきました。
講演1:認知症とは
まず、近畿大学医学部リハビリテーション科、メンタルヘルス科講師花田一志先生が「認知症とは」と題したお話をされました。
スライドを使って、認知症の所見、物忘れとの違い、認知症の原因になる病気、認知症の予防、進行を遅らせる新薬などについてわかりやすく説明していただきました。
内容の詳細は下記に示します。
1.高齢化の現状
65歳以上の高齢者は1985年で10%、2005年で20%、2010年で23%、2035年では33%と増加する。高 齢者絶対人数の推移は2020年から飽和状態になるが、全人口が減少するために高齢者比率は漸増する。
2060年では人口8000万人、高齢者比率40%と推定されている。
現在、高齢者の認知症の推計は15%、2012年時点で約462万人に上る、また、軽度認知障害の高齢者も約 400万人いると推計され、4人に一人が認知症の予備軍となるので、早急な対策が望まれる。
2.認知症とは(DSM-Ⅳより)
①記憶障害がある
②失語、失認、失行、実行機能障害の一つがある
③ ①と②のために生活に支障がある
④ ①と②の原因として脳などの身体疾患がある
⑤意識ははっきりしている
3.一般的な認知症の所見
何度も言う、言葉がでない。薬の管理ができない。だらしなくなったなど
4.物忘れと認知症の違い
単なる物忘れ:置き忘れ。何を食べたかを忘れる。人の名前が出てこない。場所、日付は分かる。判断は できる。計算はできる。体験の一部を忘れる(きっかけがあれば思い出す)。
認知症の物忘れ:内容のすべてを忘れる。食べたことを忘れる。人の顔を忘れてしまう。場所、日付が分 からない。判断ができない。計算ができない。体験のすべてを忘れる(完全に記憶が抜け落ちる)。
5.認知症の原因になる病気
①正常圧水頭症 ②脳腫瘍 ③甲状腺異常 ④レビー小体病 ⑤アルツハイマー
6.アルツハイマー
アミノベータ核 ⇒ タウ蛋白が暴走し始める ⇒ 神経細胞が死んでしまう(お城の崩壊の例えで説明)
現象:年月日が分からなくなる ⇒ 季節感がなくなる ⇒ 同じものを買うようになる ⇒ トイレの場所が分からなくなる(入口の判別ができなくなる)
検査方法:心理検査、血液検査、CT・MRI、SPECT・PETなど
7.よくある質問
(1)さっき言ったことを忘れる、何度言っても理解しないなどの対応の仕方
①一つ一つ伝えましょう ②丁寧に話す(ゆっくり話す)
(2)診察やデーサービスに行こうとしない時の対応の仕方
①家族、介護者が一緒に行く ②かかりつけ医者から勧める ③ヘルパーさんから誘う
(3)進行を遅らせる薬は?
①アリセプト:もっともよく使われている薬、朝1錠+胃薬を処方
②レミニール:不眠の副作用あり
③イクセロン:貼り薬
④メマリー:中高度のアルツハイマー向けの薬(神経の雑音を避ける薬)
①~③は軽度のアルツハイマー向けの薬(アセチルコリンを補充:機械に油を注すようなもの)。
②~④は2011年発売の新薬である。
熱心に先生のお話に聞き入る聴講者
8.予防
(1)一次予防:発病を防ぐ
①高血圧治療 ②血管性認知症を防ぐ ③生活習慣病の予防
(2)二次予防:早期発見し薬を投与
9.一次予防について
・頭を使う(何事にも興味をもつ、相手のことを想いながら生活する、
TVの見方:突っ込みを入れる、内容を人に伝えるなど)
・食事を工夫する(認知症に良い食事:EPA,DHAを含んだ食材、成人病になりにくい食事など)
・運動をする(全身運動:散歩、ストレッチ、ラジオ体操など)
10.コントロールできない危険因子
・年齢:年齢と共に増加
・性別:女性に多い
11.コントロールできる保護要因
・高脂血症 ・糖尿病 ・高血圧 ・肥満 ・タバコ ・頭部外傷 ・悲観的性格
・ビタミン欠乏(B、C、E、葉酸、ニコチン酸) ・抗炎症剤(リュウマチに使われるロキソニン) ・魚(DHA:ドコサヘキサエン酸、EPA:エイコサペンタエン酸) ・飲酒は適量ならよい方向に向く (ワイン250ml2杯、酒1合) ・銀杏エキス、カレーなどが効果的
・睡眠時間は4.5~7.5時間が適当(90分の倍数)
12.認知症予防の運動
(1)有酸素運動 脈拍は通常の1.2~1.4倍が効果的である。
(2)拮抗運動が脳を活性化する ⇒ 前がパー、胸がグー。前がグー、胸がパー など。
(3)フリフリグッパー運動 ⇒ 足を肩幅に広げ、腰を回転しながらグー、パーを行う。
(4)手先を動かす ⇒ 字を書く、何かを作る。
(5)黙っていないで声を出す。
13.まとめ
(1)アルツハイマーに対して早めに意識を持つ。
(2)予防は毎日続けられるように日常生活に組み込む。
(3)しんどいことは続かない。興味のあること、楽しいことを毎日少しずつ行う。
(4)頭によいサプリメントはないので注意を要する。
講演2:認知症の画像診断
次に、近畿大学医学部 附属病院早期認知症センター教授石井一成先生から「認知症の画像診断」のお話がありました。
検査方法、新しいPET検査などについて、また、画像診断結果をスライドで詳しくわかりやすくご説明いただきました。
内容の詳細は下記に示します。
1.検査方法
(1)形態検査 ⇒ CT(放射線を使う)、MRI(磁気共鳴原理を使う)
この検査では脳の萎縮の程度を検査する
(2)機能検査(核医学検査)⇒ SPECT、PET
この検査では放射線薬剤(ラジオアイソトープ)を身体に入れる。
放射線量は4ミリシーベルト程度であり胃のX線検査と同量で身体への影響はない。
SPECT:脳の血流を検査する
PET :脳ブドウ糖代謝を検査するFDG-PET
アミロイドイメージング検査(研究段階)
FDG-PETはブドウ糖の消費を見る(FDGは検査前に静脈注射する放射線が出るブドウ糖の薬 であり、がん細胞にも集まる)。
①がんの検査 ②脳の検査 に使われる ⇒ 認知症ではブドウ糖を使う量が減る。
2.認知症に関係する脳の部位
・海馬 ⇒ 新しい記憶に関係
・後部帯状回 ⇒ 空間認識や記憶などに関係
・頭頂葉 ⇒ 言語による表現、行動、空間認識など
・前頭葉 ⇒ 行動をおこすこと(運動・意思など)に関係
3.認知症画像診断の流れ
(1)MRI検査でわかること
①慢性硬膜下血腫 ⇒ 血腫の部位を発見
②特発性正常圧水頭症(脳室に水がたまる) ⇒ 歩行障害、認知障害、失禁等
治療としてはチューブを体内に入れて水を体内に戻す。
③脳の萎縮
アルツハイマー病の初期段階は正常、MCI(軽度認知症機能障害)、アルツハイマー病の段階になり、
MRI検査の脳の萎縮程度、FDG-PET検査でのブドウ糖の代謝の低下の程度で判別できる。
(2)レビー小体型認知症
パーキンソン病の仲間、アルツハイマー病と比べると20%位の数の患者がいる。
特徴としては、
①認識機能の変動
②幻想体験
③パーキンソン病的症状
この病気は、FDG-PETで後頭葉のブドウ糖代謝低下をみれば判断できる。
(3)新しいPET検査(アミロイドPET、アミロイドイメージング検査ともいう)
11C-PIB(放射線薬剤)を投薬して検査する ⇒ アルツハイマー病の予言ができる(アミロイドが脳にたまるとアルツハイマー病の原因になり、発病20年前から脳に溜り始めると言われている)。
(4)近畿大学のもの忘れ診断外来
①FDG-PET検査 自由診療 46,000円(消費税別)
②アミロイドPET検査 研究段階につき無料
(現在大阪府内では近大と市大のみ検査可能)
質疑の時間では次のような質疑応答がありました。
1.前頭側頭認知症について ⇒ 側頭は記憶を司る
2.味覚障害について ⇒ 亜鉛が少ないと味覚障害が起こる。認知症とは関係ない。
3.アポリポ蛋白の検査 ⇒ 阪大で検査できる
4.貼り薬の部位 ⇒ 背中、足など
5.動脈瘤、ペースメーカー装着者は検査できない
6.リバスタッチ ⇒ 軽中度のアルツハイマー型認知症の進行抑制貼り薬。効果は認定されていない。副 作用に注意が必要。
約130名の聴講者は始終熱心に聞いていました。これを契機に認知症の理解が深まり、予防、早期発見、治療などへの心構えができたらよいなぁと思います。
用語の説明
DSM-Ⅳ :Diagnostic and Statistic Manual of Mental Disorders
精神障害の診断・統計マニュアルの第4版
CT :Computed Tomography コンピュータ断層撮影
MRI :Magnetic resonance imaging 核磁気共鳴画像法
SPECT :Single photon emission computed tomography
単一光子放射断層撮影
PET :Positoron emission tomography 陽電子放出断層撮影
FDG-PET:18F-fluorodeoxy glucose (FDG)- PET
MCI :Mild cognitive impaiment 軽度認知機能障害
11C-PIB :Pittsburgh compound B アミロイドイメージング剤